2023-08-15

実母と凍ったヌマスグリ

あの娘はどうにも人と違った時間を持っているようで

遠くを見つめてぼんやりとしては

一人で楽しそうに笑っている

人を気にしないのかといえばそうではないようで

買い物の時に後ろをついてまわる娘の

立ち止まるのを少し疎ましげにどうしたと問えば

彼女はなんでもないと言って笑って私に追いつく

正直この娘は私にどこも似ていなくて

穏やかで優しそうにしては人に関心を持てぬ寂しいあの義実家の血を

大変よく受け継いでいる

長女だからなのだろう人にもうまく頼れずにいて

結婚したとて相手をよく下げるように言い

そういうところばかり自分親族のよくない部分を受け継いでいて

いやきっとそれも長女の気質なのだろう

末っ子の私にはそんなところはないのだから

まれる順番それまでも

娘はちっとも私に似ない

  

  

  

私はそんな母とどうにか一緒になりたかったのです。

貴方の子供の話を私は貴方に聞いて欲しかったのです。

貴方旅行をするのは好きです。

私は貴方が好きなので。

でも私はどうにも貴方と違った時間を持っているようで、

それが貴方にとってあまり好ましいことではないのは承知しております

わかりにくい、読み取りにくい私の様を

素直で可愛げのある貴方は苦手とするのでしょう。

でも貴方は話を傾聴する娘である私をどうにか手放さないように、

時々優しい様子で褒めてから、そうして善意の助言というていで

悔い改めよというのです。

お母様、自分気質のよく似た愛嬌のある妹はさぞかわいいのでしょう。

旅行の話を延々と語る口から出る声が半音上がって楽しそうにいているのでわかります

ええ、どうぞ、どうぞそちらを可愛がってやってください。

私は貴方を好きでいたいので、貴方を好きでいられる距離に置いておきたいのです。

お母様、私は貴方の産んだ子の中で、一番社会的な正解を選んで生きて参りました。

それなりにではありますが、生きにくくはありますが、

私は私の人生を、私のこの性格でも、十分良い人生であると思っているのです。

ご不満がまだまだあるようでしたら、手を離してくださって構いません。

私は貴方の娘ではありますが、私も流石にどうにも一緒になれないとわかりましたので。

どうぞ、どうぞ私を手放してください。

そうして貴方の愛しいもう一人の娘と、よろしくどうぞ生きていってください。

  

嫌いになれたらどんなに楽か。

  

からもらったヌマスグリの実を渡すや否や、

「美味しくないのをもらったからお前にやる」という、お母様のその口から

私によく似ているという伯母をひとでなしという愚痴が溢れるのを、

私は困りながら笑顔を作って聴きました。

私が果物を凍らせてそのまま食べるのが好きだと知っていて、

先ほどのヌマスグリジャムにでもすると良いと言い、

実家に実る大粒のヌマスグリの甘いのを自慢して、彼女は席を立ちました。

靴を履きつつ一つ二つ気遣うような言葉をくれて、そうして、彼女は帰って行きました。

  

嫌いになれたらどんなに楽か。

  • あなたの文章はnoteで見たい 増田で見るにはあまりにもくどい

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