今の彼女にだって前の彼女にだって、初体験の相手は?と聞かれたときには、何とかはぐらかしている。
浪人を挟んで志望校に合格して、20歳になってからもしばらく経った大学1年生の冬、所謂「魔法使い」だの何だのと言われてもおかしくないタイミングになって、「もういいや」と思って行ったのは50分で2万円もしないソープランドだった。
その事実を知っているのは、数年前に変な流れから一夜限りのセックスをすることになってしまった高校時代からの友人だけだ。
高校時代も大学に入ってからもそれらしい話があるような話しぶりをしていた自分だったので、彼女ですら本当に意外だと本当に驚いていたのを覚えている。
先日、腰痛から来る脚のむくみがひどくなって、エロい意味じゃない、普通のマッサージに行ったが、その時のベッドを目にして、なぜか急にあの日の高さのないベッドを思い出した。
あの日、きっと30歳も優に超えたであろう女性と、似たようなベッドを目の前にして、脳裏に「これがお前の墓場じゃ」という声が再生された。どういう意味で墓場だったのか、今でも分からない。
あのおばさんの源氏名も忘れちゃったな。「葉」の字があったのはなんとなく覚えているんだけど。
特に照明も落としていない部屋で 69 の体勢になって目の当たりにさせられた女性器を指さされ「ここがクリトリスね、で、ここが…」と簡単に講義を受けた。
乾いた喘ぎ超えを耳にしながら腰を振りつつ果てた。
その後は、時間も余って性欲はあったけど、もう一回、みたいな気持ちは起きなかった。
時間を終えて、姫に見送られて、階段を降りて、それまでと変わらない町並みに舞い戻って、自分の世界が変わったのか変わってないのか、よくわからなかった。
「これが、よく言う、男なんて童貞を捨てても『こんなもんか』と思うという、あの感覚か」と一瞬思ったけれども、
よく考えたら、自分がそれに該当するのか、よくわからなかった。
当時にタイムスリップして自分にアドバイスするとしたら、家庭教師をそこまで頑張って金を貯めるなら、徹底的に調べ上げて高級なお店のトップの女性の手ほどきを受けるべきだよ、と言いたい。
ほんと、悪いことは言わないから。