ほとんど家を出られなくて、鬱々とした気分が続きました。
食欲はあって、眠れて、薬も飲んでいたんですけど、身体が動きませんでした。
それで、死にたくなったんです。
記憶の中の死んだ旧友や親族が輝いて見え、自分も彼らのようになりたいという思いがこみ上げてきました。
『ライ麦畑でつかまえて』で、主人公のホールデン・コールフィールドが、死んだ弟のアリーが好きだって言うシーンあるじゃないですか。
妹のフィービーに好きなものを挙げなさいって言われて、ホールデンは即答できなくて、追い詰められた末の答えがアリー。生きているやつらよりはずっといいやつだってホールデンは答える。
社会とうまく折り合いをつけられないホールデンは、もう死者にしか魅力を感じない。
彼みたいな気持ちになったんです。
それで、プラグ部が分解できる昔の延長コードを使って死のうとしたんです。
引き裂いた導線の片方を左胸に、もう一方を背中につけ、電源タップに接続しました。
すごく怖かったんですけど、心臓が拍を打つタイミングによっては、わずかな通電時間でも心室細動が起きて死ねるから、やってみようと思ったんです。
布団に入ってしばらく逡巡してから、電源タップのスイッチをオンにしました。
ものすごい出力の低周波治療器を当てたみたいな痙攣に襲われました。それと導線が触れている部分に焼けるような痛み。
それで、あまりに強い衝撃だったから、びっくりして電源タップのスイッチを切ってしまったんです。
しばらく胸と背中には違和感が残って、全身の震えが止まりませんでした。
自殺未遂はこれで二度目です。最初は睡眠薬をお酒で流し込みました。
その時は吐いて気を失ったあと目が覚めて、死ねませんでした。
今回も失敗です。怖くて怖くて、とても二度目はできませんでした。