台所で僕はトーストを二枚焼いて、コーヒーをあたためた。それからFM放送を聴こうとしたがステレオ・セットが故障していることを思いだしてあきらめ、新聞の読書欄を読みながらパンをかじった。読書欄には僕が読みたくなるような種類の本は一冊も紹介されていなかった。そこにあるのは「年老いたユダヤ人の空想と現実の交錯する性生活」についての小説とか、分裂症治療についての歴史的考察とか、足尾鉱毒事件の全貌とか、そういうものばかりだった。そんな本を読むくらいならまだ女子ソフトボール部の主将とでも寝ていた方がずっと楽しい。