うちの猫が死んだ
朝方、猫の死体を母が発見したのだ
僕は大変ショックを受けたが社会人なので休むわけにはいかない
朝食を流し込むといつもようにオレンジジュースを一杯飲み家を出た
猫は僕が拾ってきた猫だった。
まだ子猫で、幸い実家暮らしであったのでそのまま飼うことができた
以来、彼とは九年の付き合いであった
僕は気持ちを切り替えようと試みた
しかしそれは難しいことだった
仕事中に猫の顔が幾度も浮かび、何度も鳴いた
僕は心がぎゅうとなるのを感じた
鋭利な喪失感が僕の心で何度も爪研ぎをする
僕は猫の死体が夏の蜃気楼であることを願った
それでも梅雨は未だ明けていない
仕事からの帰り道、僕は自分の影ばかりを見て歩いた
猫の死体にも影はあったのだろうかと考えながら僕は歩き続けた
不意に鈴の音が僕の耳をくすぐった
僕はあわてて振り返る
そこに猫の姿はなく、陽炎のように揺れるたんぽぽが一房、尻尾を振るように実っていた
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