2023-12-01

俺は子供の頃マンションに住んでいた。

そこで同じ階に住むおばさんがいて、すれ違いがてらとか、エレベーターで一緒になったときかによく声をかけてもらっていた。

そのおばさんのことは別に嫌いでもなんでもなかったし、ただ同じ階に住むおばさんとしか思っていなかったのだが、朝、こちらが登校するときなんかに「いってらっしゃい」と毎度毎度言ってくれるのに対し、その時分の俺はどういうわけか「いってきます」と言わなかった。

どういうことだと思うだろう。俺もそう思う。

「いってらっしゃい」と言われたら「いってきます」と返すのがもの道理自然言葉のやりとりであろうが、しかして俺はその言葉になんとなくにへらっとして軽く頭を下げ、小学生の時も中学生の時も高校生の時もそんな調子で切り抜けた。

当時の俺は家の玄関から出る時以外に「いってきます」と言うものなのかどうかわからず、それを口にするのに妙な抵抗を感じ、ただただ戸惑っていたのだ。

まぁ子供のすることだし、こちらもにへらっとはしていた訳だから、あのおばさんもさりとて気に障ることなく毎度毎度「いってらっしゃい」と言ってくれていたのだと思うが、今にして思えば変な話だ。言えよ。いってきますって。

もし逆の立場だったらん、とはなると思う。大人だったのだなあの人は。そして俺は子供だった。今はどうだろうか。まぁ当時よりは大人なんじゃないか。そうでなきゃ困る。そうであってくれ。

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