2021-01-10

坂道を下る

俺の家は、坂道の下にある。

坂道といっても、そこまで急勾配なわけでもなく、かと言ってつまらないほど平坦なわけでもない。

自転車ですいすい、仕事帰りに風の暖かさを感じながら下るのがとても楽しい。思わず目をつむりたくなるけど、それは我慢する。

そういうちょうどいい坂道がある。

そんなある日。

いつものように仕事帰り、自転車坂道を下っていると、ちょうど坂道歩道のほうで女性うずくまっていた。

いろいろあるご時世だし、声をかけるのは少し躊躇したけど、まあ俺が恥をかくだけだしいいかと近づいた。

女性はうーうーと苦しそうに唸っていて、しまいには嘔吐してしまった。

吐いたものは妙に白くて、まるで染料のようで、少し甘い香りがした。

俺はピンときた。これはオーバードーズだ。

べつに、医学知識があるわけじゃない。おれも昔、同じ薬を使って同じ嘔吐したことがあるから、すぐにわかった。

その薬を吐くとこう、妙に白いものが地面にこべりつくのだ。

俺は女性に「◯◯のオーバードーズですか?」と聞いた。女性は少し驚いたが、こくりと頷いた。

それならば、と俺は近くのコンビニででかい天然水を買ってきてガブガブ飲ませた。救急車とか、警察かいう話は出してはいけない。俺が一番嫌だったこなのだから

しばらくすると、女性は体調を回復したようで、俺にお礼を言って坂道を下っていった。

俺もこの坂道を下らないと家に帰れないんだけど、それは言わず女性が見えなくなるまで見送った。

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