私の仕事は、三行スパイだ。
こんなこと、匿名であっても書くべきではないのかもしれない。
それでも、秘密を持つと、人は誰かにそれを話したくなるものだ。
あの理髪師の気持ちが、いまならとても、よく分かる。
三行スパイの仕事内容は簡単だ。
作家から依頼を受け、ライバル作家の構想から、三行を盗む。
依頼者はその三行を使えるし、盗まれた側は使えない。
たった三行?と思うかもしれないが、三行は重要だ。
「メロスは激怒した。」のない「走れメロス」を想像できるだろうか?
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」のない「吾輩は猫である」は?
「精神的に向上心のない者はばかだ」のない「こころ」は?
核心となる三行を失った作品は、それだけでもう作品として成立しないのだ。
ここまで書いて、私は致命的なミスに気付いた。
畜生、私としたことが…。油断していた。
この文章の絶妙なオチ三行を盗まれるとは…。
Permalink | 記事への反応(1) | 18:14
ツイートシェア
好き