「数日前のことであるが、慈善家の貴婦人がパリのある施設を訪問した。そこには、数ヶ月前から多数のベルギー難民が暮らしていた。
彼女は、そのなかにいる十歳ぐらいの少女に気がついた。この少女は、部屋が相当暑いのに、両手をみすぼらしい、ぼろぼろのマフに突っ込んでいた。
突然、その子が母親に向かって言った。
『お母さん、鼻をかんで』
『まあ!あなたのような大きな子が自分で鼻もかめないなんて』
慈善家の貴婦人は、笑いながらも、きびしく言った。その子は何も言わなかった。
すると母親は沈んだ、感情を殺した語調で言う。
『マダム、この子は両手をなくしたのでございます』
貴婦人は目を見張り、震えあがり、了解した。
『ええっ、なぜですの?もしや、あの、ドイツ兵が?』
母親はどっと泣き伏せた。答えは、それだけで十分だった」
プロの嘘松はレベルが違う。
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