一般的な人間の顔が「ニィ」と笑うとき、唇に囲まれた領域は、左の口角から右の口角まで、すき間なく歯に満たされて見える。
しかし彼らは違う。
口の横幅が広いのか、歯並びが縦長なのか、正面から見えるのはせいぜい犬歯あたりまで。
その先は口角まで、唇にはさまれた、何もない空間が広がっている。
このすき間、審美歯科の用語では「バッカルコリドー」というらしい。
しかし忌むべきことに、笑顔に影を作る悪役であり取り除くべきものだとされているようだ。
何を言うか。あの空間は宇宙だ。愛の源泉、まぎれもない性的アピールポイントだ。
私はあのスキマがたまらなく好きだ。
「口角のスキマ」と名付けて昼夜愛で倒している。
そしてたぶん、適切な言葉が存在しないから気づいていないだけで、同様のフェティシズムを持つ人は一定数いると思う。
「口角のスキマ」
同志よ、この言葉のもとに集え。