俺が彼女と会うのは初めてだった。
彼女は俺の顔を見ると、「はじめまして、ってのもおかしいね」と言って笑った。
後ろには彼女が先ほど降りてきた車……というかトラクターがあった。
窓からみえた運転手は、顔がじゃっかん土で汚れていて、麦わら帽子を被った農家のおっさんだった。
彼女が「じゃ、映画でも見ようか」と言っているところ、農家のおっさんは俺に何やら微笑んで、手を振ってそのままどこかに走り去った。
彼女は結局その日、なぜその農家のおっさんの車から降りてきたのかを一切言わなかった。
彼女とはいわゆるSNSで知り合って、何気なく(といっても、俺に下心がなかったとは言えないけど)会話や通話をしていた。
会話の内容はその年頃にありがちなくだらないもので溢れていて、バイトの愚痴だとか学校の悪口だとか、そんなもんだった。
その会話の中でも俺の興味を特に引いたのが、昔(といっても、15歳ぐらいの時分だったらしいけど)、彼女が援助交際をしていたという話だった。
夜が深くなり、会話の内容がまばらになると彼女はその話をポツポツし出すのだ。
後悔が大半だった。
彼女はどうやら、自分が援助交際したことで、何かとてつもなく大きいものを失ったと感じているらしかった。
それは言語化できないものだったのだろうけど、彼女と歳が近かった当時の俺にはとても刺さるものがあった。
哀れだったし、惨めだったのだ。可哀想だとも感じた。やがて自分に対して同情する男を好きだと勘違いする少女特有の脳内回路に電気が走ったようで、いつの間にか彼女と一回も会っていないのに付き合うことになっていた。
彼女は俺が住んでいる都会からは少し遠いところに住んでいて、こっちに来るには交通費がかさんだ。
そこで彼女は思いついたのだ。
そこら辺のおっさんの車に乗せてもらい、運賃の代わりに援助交際することを。
これを知ったのは別れ際だった。なぜあの時、農家のおっさんのトラクターから降りてきたのか、俺は初めて理解した。好きな男に会うために男に身体を許す矛盾、そんな少女の身体を消費するおっさん。何だかゾッとした。
増田と付き合わなければ金が必要になることも無かったからな????
トラクターってw 待ち合わせ場所は農協かw