2020-06-26

2013年11月30日日記

天気が悪くて寒い日だった。

渋谷道玄坂にあるネオンの下には見慣れない行列が出来ていた。

並んでいるのは男性ばかり、彼らはみな今日引退する、あるストリップ嬢の写真を撮るために長蛇の列を作っているのだ。

私もその1人だった。

彼女は変わった踊り子で、一度見たら忘れられないインパクトを残す。

それをいいと言う人もいれば悪いと言う人もいた。

列に並びながら、考えていることが一つあった。

引退日の今日彼女は何の演目を出すだろう?

簡単に言うと、ストリップ劇場踊り子1人につき1日4回出番がある。

偶数奇数回で2演目出す踊り子もいれば、

全回同じ踊り子最終回だけ違う踊り子、色々だ。

4回と書いたが、今日はこの長蛇の列の為に3回回しになるだろう。

先ほど見た1回目は"陰陽師"だった、代表作の一つだと思う。

最後はもちろん引退作だろう、では2回目は?

写真を撮り終わった顔見知りの客が通りかかった。

「まだここなんだ」と笑われた。

彼に「次何出すか知ってる?」と聞くと、彼はそうそう!と指をさし、

湾岸830らしいよ」といった。

耳を疑った。

それは、湾岸警察署勾留中のストリップ嬢、

"830番"の1日を描いた切ない演目だった。


830番、彼女本人が呼ばれた名前だ。

湾岸警察署勾留され、出所のちすぐこの作品を作るも、踊ったのはほんの数回らしい。

なぜ最終日、満員の観客の前で……

そうこうしている内に撮影は終わり、開幕ブザーがなった。彼女の出番だ。アナウンスが入り、灯りが照らされる。

ステージ中央には布団が1組。

けたたましい「6:00、起床!!」の音が響き、布団からマル湾とかかれたグレーのスウェットを着た彼女が現れた。

本当に"湾岸830"だ。


彼女時間ごとの号令に従い行動する、慣れないことばかりだ。

物凄いスピード食事をとり、刑務をこなす

風呂も入れずあっという間に夜。

周りの女囚の歯軋りやいびきでとても眠れない。

布団を被ると、束の間の夢を見た。

その夢は、美しい衣装ストリップを踊る夢だ。


ステージを見ながら思い出す。

彼女は、ここ道頓堀劇場公然猥褻罪により逮捕された。

その時踊っていた演目は"陰陽師"だったという。

逮捕により辞めてしまストリップ嬢は沢山いる。

でも彼女今日までこの世界で踊っていた。

大勢の観客に見守られ、無事引退の日を迎えることが出来た。

ほんとに夢みたいだ。

そんな思いでこの最後の日に"陰陽師"と"湾岸830"を選んだのだろうか?

湾岸830のラストは「6:00、起床!」という音ともに暗転する。

だが、この今日ラストは夢ではない。


私は得意の客じゃない。

彼女と込み入った話などしたことはない。

ただ、勝手にそんな想像をして

彼女ステージへの思いに涙してしまった。

色んな劇場で色んな踊り子を見たが、

あの11月道頓堀劇場のことは、今も褪せず覚えている。

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