翼が映えた勝利の女神、ニケを象った像だ。
この像の大きな特徴として、頭部と両腕が失わていることが挙げられる。
この説明を聞いて、頭部と両腕が失われている美術品なんて欠陥ではないか?と思った人も多いはずだ。
私はそうは思わない、逆にこの欠損が無かったらニケは今程有名ではなかっただろう。
何故なら欠損こそが見た者の想像力を掻き立て、頭の中で自分の理想のニケを作り出す力があるのだ。
つまりニケと言う彫像は単体では完成せず、観測者の脳内で補完されることによって完成するのだ。
序論はここまでにして本題に入るとしよう。
「欠損した女神の彫像が想像力で補完され、完成する」なんて言うと如何にも非日常的に響くかもしれないが、我々はこれを日常的に行っているのだ。
切れてしまった人間関係、死別した人間、2度と戻らない楽しかったあの思い出
これらの続きを思い浮かべたことはあるだろうか?
サモトラケのニケの欠損も、今挙げたこれらの思い出も不可逆でこの世界から失われたからこそ想像の余地があり、途方もなく美しいのだ。
想像力は、自分の中の世界だけなら不可能を可能にしてしまう魔力がある。
どうか、この力と上手く向き合い、付き合ってほしい。
ミロのヴィーナスの方が有名じゃん