2021-01-16

童話

 昔々或る町はずれの家に、二人の姉弟暮らしていました。

 それはそれは仲良しな二人は、何をするにも一緒でした。

 或る日、姉が街へ買出しに行くと言いました。。毎月、1度は帰らない日があり、弟も何も不思議には思っていませんでした。

「いいこと?今日はお家で大人しくなさい。明日には私も帰ります、出来ますね?」

「もちろんさ、姉さん。いつまでも子供と思ってくれては困るよ」

 それだけ約束すると、姉は少量の荷物と共に麓の町へ降りました。

 しかし、弟ももう十つになる歳であります。月に一度戻らない姉に、不信感では非ずとも、興味を抱くのも当然と言えましょう。

 それ故に、その月の姉の帰らぬ日、言いつけを破り弟は姉の後をつけました。

 弟は、姉の姿を追い、その影がとある民家に消えていくのを見届けました。

 その家からは、あたたかな光と談笑、そして絶えぬ愛を感じることが、弟の幼い心でもハッキリと受け止められました。

「姉さんは、僕が毎月一人で孤独で居る中、こんなに温かい家にいたのか……」

 弟の中には、沸々と、裏切られたと思う怒りと、孤独を裏返した怒りのその両方が、湧き上がってくるのを感じていました。

 いつの間にか、怒りに駆られた弟の爪は鋭く、歯は爪のそれよりも鋭利に、そして飛び跳ねるその足はそのどちらよりも際立って『狩り』の為のものとなっていました。

 弟は、それに気付いてか気付かずしてか、姉が入った民家に飛び入りました。

 その爪は、民家の母を裂き、その足は父を砕き、牙は息子を噛み千切りました。

 『狩り』を終えた弟は、ひとたび雄叫びをあげると、闇の中へと駆けて行きました。

 果たして姉は、このことを知り弟を守るための嘘をついたのか。

 弟は、消えゆく理性の中でその事だけを最後に考えて、森へと駆け続けます

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