自分が深海で生きていることを想像する。
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私はマリアナ海溝の最深部、チャレンジャー海淵で生きている。
水深は1万メートルを超え、太陽の光とは完全に無縁な暗黒の世界だ。
ギリシャ神話の冥界の神ハデスになぞらえて、Hadal zoneと呼ぶ者もいる。
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高水圧・低水温・暗黒・低酸素状態の過酷な環境で生存できる生物は少なく、
白い砂ばかりの殺風景な場所は静寂に包まれている。
ここには敵も味方も居ない。
私は緩やかな水流を感じつつ、日がな一日じっとしている。
極僅かなデトリタスが私の糧だ。
たまに小さなエビや白くブヨブヨした魚と出会う。ゆったりとした動きで、いつの間にか暗黒の中に消えてゆく。
膨大な海水の層に守られているため、ここは地上の環境の変化とは無縁だ。
黄泉の世界の如く、極めて穏やかな場所だ。
私はこの環境の変化が少ない場所で、一人で、悠久の時を過ごしている。
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