「人間に価値があるとするのならば、それは排便をした回数によってのみ規定することができる」
あの日、増田くんは私の見ている目前でパンツを下ろし、粗末な袋や棒を縮こまらせ、肛門を思う存分におっ広げ、特大の大便をひり出しながら、照れ隠しのように言った。その大便は人が理性を保ったまま直視できない形状をしていて、地獄行きのバスの排ガスのような異臭を発していた。
増田くんが肛門を拭かなかった。私はそのことがどうしても許せなかった。うんこを拭かなかったら肛門がものすごく痒くなってしまう。増田くんは素手で肛門をボリボリとかくだろう。しかし、それはタブーだ。肛門には神聖なるトイレットペーパーでしか触れることは許されない。
私は後ろ手に持ったスマホから警察に通報した。駆けつけた警官によって増田くんは逮捕されることになるが、それには二名の殉職者が必要だった。
連行されながら、増田くんは私に向かって最後の言葉を投げつけてきた。
「お前はすべてのうんこを知った気になっているのではないか! それは違うぞ! うんこはこれからも生まれ続けるのだ!」
それはどうしようもなく惨めで愚かな増田くんの人生の言い訳のようだった。私はなにも答えなかった。なぜなら、増田くんはあと十人いることを知っているから。
増田くんの残したうんこが私を凝視していた。いつかはここから新たな増田くんが生れてくるのだろう。
消えてなくなれ。私は祈りを込めて消臭剤を吹きかけた。