帰りの電車に乗り、着席してうたたねしていた。
はたと気がついたとき、私を取り囲んでいた人々が微妙に生温かく感じた。
彼らの身形や態度は普段は刺々しく、自分からはあまり近づかないようにしているのだが、今日はそんな人ばかりが周りに集っていた。しかも雰囲気が温く、なんだか馴れ馴れしいのだ。
異世界に飛んだら多分、こんな気分になるのだろうなと思う。
世界は何にも変わらないように見せて、それでいながら脳内ラジオのチューナーがこっそり別の周波数を選んでいる。
前もこんな体験があった。10年くらい前の、夏のこと。
あのときは気づかなかったけれど、多分私はあの日異世界に飛んだのだ。
なぜならその日から、ただの淡泊なイメージしかなかった世界は、敵意と悪意に満ちた汚いものへと変貌していったからだ。
去っていくものもいたし、ギラギラした眼で追いかける人も現れた。
私の存在を消そうと懸命になる者もいるかと思ったら、いつまでも忘れないように監視するものも、いた。
今日、自分の周囲の人々がまた一斉に変わったと思ったら、先程家から出たらいつも通りの空気だった。
絶望の中、なぜかとてもほっとした。