「どんなに盛り上がっても、好きとか愛してるとは、言わないようにしてるんです。」
ほら、とくに最中なんかにはね、と年下の愛人は嘲笑うように続けた。
彼の横顔は、なんというか天使だ。くるくるの髪の毛にすべすべの肌。細身の体躯は夫とは正反対である。
いつものようにベッドでじゃれている時、ふとこんな天使みたいな子が、わたしみたいな只のオバサンと無邪気に会ってくれるとか、収入のないわたしに都度ご馳走してくれるとか、全身をマッサージした後に更に手やら口やらで愛撫を加えてはいたずらっぽく笑ったり、そんな全ての事象に感謝したくて多幸感が満ち溢れてきて。
しまった、とは思わなかった。最初から返事なんて期待していなかった。
息を飲む音が聞こえた。よく喋る彼には不似合いな沈黙に、その音が響いた。
「僕も、増田さんのこと好きです。」
今度こそ思った。
「しまった。」と。こんなに固い表情の彼を見るのは初めてだった。
多分取り返しのつかないことをしてしまったんだろう。
彼に「好き」だと言わせてしまうなんて。
ぼんやりとした感じでその日の逢瀬を終えた。やはり、踏み越えてはいけないところを越えてしまった感じがあった。何度も寝てるのに可笑しいものである。
私は夫とは別れない。
それはそれ、これはこれ、ええと、次はなんだっけ?ファックはファック?
なので彼に大好きだのいってしまったのはやはり間違いだった。と、今となっては思う。
ま、後悔はしてませんが。
縄を編むようにカルマを君と編んでいきましょう。
こんなとこでしかきっともう言えないけど。大好きだよ。