変な話だけれど、
小さいころから、祖父が亡くなったら、祖父の髪の毛をハサミで少し切って、お守りとして持っておきたいと考えていた。
なぜそんなことを考えたかは分からないけれど、いずれ亡くなることは子供ながら理解していて、身の一部を分身として持つことで、いつも一緒にいられると考えていたのだと思う。
私は祖父が大好きだった。
そんな祖父が亡くなった。
でも、髪の毛を持っておくという考えは浮かばなかったし、また浮かんでもそんな不謹慎なことはしなかったと思う。
なんだか申し訳なくて。全部廃にしてあげて天へ返してあげたいという気持ちだけだった。
数カ月後、祖母から、祖父の形見だといって母親経由でセーターをもらった。
そのセーターは、百貨店で祖母が珍しく祖父へ買ってあげたものだった。かなり高かったらしく、一緒に付き添いで行った母親は驚いていた。
祖父は、お客さんが家に来たり、外に出かけたりするときには、決まってそのセーターを着ていたそうだ。
家に郵送で届いたセーターは、洗濯に出した袋に入っていた。
袋から出して顔をうずめてみたが、洗いたての柔軟剤の匂いしかしなかった。
祖父は車の運転が大好きだった。最後の5年間は、体が悪くて運転できなかったけれど、いつも免許証を大事に枕元に置いていた。
おじいちゃん、見てる?今、おじいちゃんのセーターを来て運転しているよ?
家に帰ってきて、セーターを脱いだとき、ふと襟元に白いものが光った。
何だろうとよく見てみると、釣り糸みたいなものが網目から顔を出していた。
指でそっと摘んで出してみると、短い白髪だった。
目の前がわっと歪んで、急に目から涙が溢れてきた。
大好きだったおじいちゃん。