2014-06-22

つのひみつけっしゃ

ソーメンやの半田くんがソーメンをくれた。

香川くんが言った。

フリーソーメン!」

フリーソーメンってなに?」と、ぼくは香川くんにきいた。

香川くんは『げっかんムー』のさいしんごうをひろげながら、半田くんとぼくにおしえてくれた。

「ひみつけっしゃのことさ」

ひみつけっしゃって、なんだろう?

ぼくは「ひみつけっしゃ」のいみを香川くんにたずねた。

香川くんはメガネをなおしながらおしえてくれた。

「ひみつけっしゃは、ひみつのグループさ」

グループ?けっしゃってなに?」

「うーん…」

しばらくして、香川くんはこたえた。

「なかまっていみだよ」

香川くんは、なんでもしっているんだ。

ぼくもたくさん本をよんで、たくさんべんきょうして、香川くんみたいになりたいな。

半田くんが香川くんにきいた。

「じゃあ、オレたちも、ひみつけっしゃ?」

香川くんは「そうだよ、ボクたちもひみつけっしゃ」とこたえた。

ふぅん、とムーを手にとった半田くんがわらいはじめた。

香川くん、これはフリーソーメンじゃなくてフリーメーソンってよむんだよ」

香川くんはかおを赤くして、うつむいてしまった。

ぼくはふたりに言った。

「ぼくたちは、ひみつけっしゃだよ」

ソーメンのゆだつにおいがしてきた。

「ぼくたちは、ひみつけっしゃフリーソーメンだ!」


それから20年の時が過ぎた。

僕たちは別々の学校へ行き、別々の仕事についた。

半田くんはソーメン屋を継ぎ、香川くんはうどん屋になったという。

僕はハーバード大学麺類研究をしている。

あわただしく過ぎて行く毎日

からメールには「もうすぐお父さんの七回忌ね。こっちには帰ってくるんでしょ?」とあった。

もう父さんの命日か。

僕はアプリを開き、日本行きのチケットを手配した。


退屈なフライト、愛想の無いタクシー運転手

幼い頃は大きく見えた町も狭く見える。

こんなにも小さな町だっただろうか?

タクシーを降りると、蒸し暑い空気が辺りに立ち込めていた。

日差しが眩しい。

夏だ。

夏が来たのだ。

「おーい!」「おーい!」

遠くから声がした。

僕は振り返る。

香川くん!半田くん!」

懐かしいあの声。あの覆面。

僕は帰ってきたのだ。


ぼくたちは、ひみつけっしゃフリーソーメン

ぼくたちは、なかま。

いつまでも、なかま。


いつまでもフリーソーメン




※この物語フィクションです。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん