駅の電光掲示板の運行情報の欄に「人身事故」の4文字を見るたび「この人はどんな風な心境で電車に飛びこんだのかなあ」と考えてしまう。
朝の通勤の特急待ちの空白の時間帯は、人間の想像力の暗黒面をいたく刺激するらしい。
目の前を猛烈な勢いで通過する特急電車を眺めつつ、自分がこの下敷きになるさまをまざまざと想像する。
きっと飛び降りる寸前は精神が正常な状態ではなく、ある種の狂熱に包まれているんだろう。そうでもなければ、高速で移動する鉄の塊の前に躍り出るようなクソ度胸は生まれそうもない。
つねに自殺を望んでいる自殺志願者であっても、ある程度理性と恐怖心が働けば、実行の瞬間に意気阻喪してしまうだろう。
だが世の中には実際に電車に飛び込む者がいる。それも結構な数の自殺成功者が。
彼らは意を決して飛び込む瞬間、自分を挽肉にしようと巨大な鉄道車輛が迫りくる瞬間、どんなことを考えるんだろう。
これで楽になれると思って救われる気持ちなのか、あるいは今更ながら自分の軽挙を後悔するのか。
飛び込んでから轢かれるまでの刹那、周囲の乗客の悲鳴を聞きながら彼らは何を思うのか。
まあ実際に自分が飛んでみれば分かる話なのだが、死ぬのなら(畢竟他人に迷惑がかかるものだとしても)なるべく迷惑をかけないで憂き世からオサラバしたいものである。