はじめて触ったその子の手は、すこししめっていて、でもすごくやわらかくて、ぬるかった。でも、確かに熱を帯びていた。わたしはその時、わたしではないものが、わたしの中に入り込んでくるのを感じた。はじめての感覚。これが他者を知るということなのだろうか。甘美で、それでいて、刹那の味。乳酸飲料とは言い得て妙なのだ。そういう青春が誰にでもあって、今は誰もが忘れているだけで、ふとした瞬間に思い出して、失われた純潔に思いを馳せる。情熱を思い出す。だけど、失われたものを想起することと、失われたものを取り返すことは違う。そういうわけで、恋と結婚が生まれるのだ。前者には美しさと儚さがあり、後者には信頼と恐怖がある。どちらが優れているとかいないではなくて、単に両者は全く異なっているだけである。
たとえばもし、この星に夜がなかったとしたならば、人間は死に絶えていただろう。陰鬱な人間は、夜無くして生きられない。健康な人間もまた、夜無くして生きられない。眠れないからである。その上で、私は、夜がもっとも嫌いなのだ。だが、そういう夜もまた、あっていいと思う。