わたしは列車に乗っていて、窓の外には故郷のつまらない景色が続いていく。たしかにそれはわたしがよく使った通学路のようだった。それは昭和初期の映像のように、或いは水墨画のように一切の色彩を失っていて、瘴気すらも漂う鬱々しい景色が延々と続いていく。
トンネルに入った。いったん暗転したかと思うと、突然に開けた場所に出る。すると列車はどうやら巨大なダムのような、円状の石造りの壁面に沿って走っている。眼下には低きに碧い湖が広がっており、窓から望む向かいの壁面には一面に黄やオレンジを基調とするカラフルな家々が立ち並び、そこからさらに右へ進むとギリシア風の白と青の街並みが広がっている。それらの街は圧巻であり、ぴかぴかと光るように鮮やかだった。夢のなかで、わたしはこれが夢であることを認めており、夢においてこれほどまで明瞭な映像的演出がなされていることに驚かされた。
目を覚ますと、白くほのかに昏い部屋には真白のベッドに横たわるわたしと、無機的な秒針の音だけが残されていた。飲みかけにしていたコカコーラ・ゼロを喉へと流し込むと、ぬるくなって気の抜けた、嘘のような甘さが口のなかに広がった。ちらちらと雪の舞う日曜日の昼下がりのことだった。