クィア・リーディングとは、ごく単純化していえば、「女性は男性を、男性は女性を」という異性愛の枠内に収まらない性愛のありかたに注目する作品読解の方法である。
たとえば夏目漱石の『こころ』では「先生」と「K」と「お嬢さん」の三角関係が描かれるが、これを男性である「先生」と「K」が女性である「お嬢さん」を取り合う物語と読むのではなく、「先生」と「K」のあいだに、さらには一連の出来事を語る「先生」と、彼から話を聞く男性の「私」のあいだに同性愛関係を読みとる──そのような可能性をクィア・リーディングは引きだす。
だからといって、異性愛の三角関係として『こころ』を読むことが「誤り」だと主張するわけではない。基本的にクィア・リーディングは、異性愛だけを前提にした読解では抑圧されてしまう要素に光をあてられるようなときに真価を発揮する方法であると言えるだろう。