引き金を一キログラムの力で引くと、薬室内で火薬が炸裂し、ガス圧がなまり玉を押し出す。
ハンドガンを包む手から反動が伝わる。手首、肘、肩、身体全体へと、重い衝撃が吸収されていく。
その時俺は機械になる。
スライダーが引き戻され、次弾が薬室に装填される。
一発、二発
ヘッドショットが決まる。
撃ち終わった瞬間、それは自動的に分かるのだ。
水切りを投げた瞬間に、何回弾むか分かるように。
作業は続く。
一分……五分……二十分……。
人は戦場になれてくると日常とは異なる感覚を身につける。例えば停滞に対する尋常ではない恐怖がある。
よく何もしないで人生の停滞期間を過ごすことを『くすぶる』なんて表現をするが、そんなものとは比べ物にもならない。
同じ場所に隠れ続けることがどれほど困難だろうか。じっとしていると凶弾に倒れる幻影で脳内が埋め尽くされる。
既に囲まれているのではないか? 今動き出せば助かるのではないか?
やがて、それらの幻想に殺されるのだ。
力なくその場に崩れ、動かなくなる。