2021-03-06

俺は機械から

引き金を一キログラムの力で引くと、薬室内で火薬が炸裂し、ガス圧がなまり玉を押し出す。

ハンドガンを包む手から反動が伝わる。手首、肘、肩、身体全体へと、重い衝撃が吸収されていく。

その時俺は機械になる。

ただ目標作業的に撃つ。

スライダーが引き戻され、次弾が薬室に装填される。

一発、二発

ヘッドショットが決まる。

撃ち終わった瞬間、それは自動的に分かるのだ。

水切りを投げた瞬間に、何回弾むか分かるように。

作業は続く。

先ほどから物陰に隠れている目標に標準を移す。

俺は機械だ。いくらでも待てる。

一分……五分……二十分……。

人は戦場になれてくると日常とは異なる感覚を身につける。例えば停滞に対する尋常ではない恐怖がある。

よく何もしないで人生の停滞期間を過ごすことを『くすぶる』なんて表現をするが、そんなものとは比べ物にもならない。

同じ場所に隠れ続けることがどれほど困難だろうか。じっとしていると凶弾に倒れる幻影で脳内が埋め尽くされる。

既に囲まれているのではないか? 今動き出せば助かるのではないか? 

やがて、それらの幻想に殺されるのだ。

目標は物陰からまらず飛び出し、俺の標準の餌食になる。

力なくその場に崩れ、動かなくなる。

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