常連さんの中に、
「お願いします!」
の一言で全ての注文を済ませる人がいる。私は、変な奴だなぁ、と思いながらも、いつものやつを用意してレジを打つ。
取扱のタバコの種類が増えすぎて、数種類がタバコ棚からあぶれてしまい、別に売れない種類でもないのに辺鄙な所に、番号札も付けられずに並べられている。売れない種類でもないからこそ、辺鄙な所に置かれていると言ってもいい。
ただ、バイトの私共もお客様もそのタバコの正式名を中々覚えないので、
「あの棚の左の棚の、右側から三番目の、灰色の、6ミリの……」
という、純文学みのある(あるいは魔方陣グルグルっぽいと言ってもよい)曖昧な指示をされ、
「これですか?」
「そう、それっす」
みたいな受け答えをしてタバコを出す訳で、それを三回ほどやったら、タバコの銘柄を覚えないわりに、私共はお客様の顔とタバコのパッケージの色とミリ数と辺鄙な定位置をセットで覚えるのであり、お客様の方も、私共の中で「話が通じる」者の顔を覚えるわけだ。
そしてまた、
「お願いします!」