平常時は非常時に備えるために与えられた貴重な時間だった。非常時、闘わねばならないときに相手を倒せるよう、きれいに勝てるよう、備えておくことが大事だった。
誰にでも武器となるもの、爪や牙が与えられているはずだと思った。仕事の現場では知識と理解、事前準備、そして気迫が大切だった。それ以外の場面では、理不尽な暴力に屈することのないようにとからだを鍛えた。道場通いで打撃、投げ、関節技に対応できるようにと技を習ったが、技以前に基礎体力がものをいうのだと理解できたことが一番の収穫だった。中途半端な技は体のできた人間に一蹴されて終わる。
さらに年齢が上がるにつれて筋力の限界が思い知らされるようになった。だから今、筋力に頼らない力を模索している。
とにかく、そういうものを鍛え、磨いておくことで、自身の心の落ち着きにもつながった。心が落ち着いたら周囲の対応も落ち着いたものとなった。そして落ち着いた穏やかな人々に囲まれる場面が増えた。