私は母が嫌いだった。教育熱心でいい子であることを強要されるのが嫌でたまらなかった。子供時代はもちろんのこと、大人になってからもアレコレと口を出され、それを内心では激しく罵りながらも、精神的未熟さ故に拒み通す踏ん切りもつかずに母の庇護のもとにあった。
そんな親子関係が突然、逆転した。
とある事情で母が障害者になった。1人では満足に生活も送ることもできない。それを見て私はかつてない程の優越感を味わった。「あぁ、もし今ここで私が背中を押したらこの人は転んで立ちあがれないのだな」という事実がとても心地よかった。生物としてこちらが完全に強者になったという優越感。それは過去の恨み辛みを全て帳消しにできるくらいに強烈に幸せな感覚だった。