ある時は、父は自分の生まれた所が見せたいと、自転車で遠く離れた父の生家まで乗り気でない僕を連れて自転車旅行に行った。
途中大雨に降られ、安物のテントに滲み出る雨を父は夜通しタオルで拭いていた事を覚えている。
中学生時分の僕は、父の自転車に付いているバックミラーが恥ずかしかった。
それを否定するバックミラーに父の老いを感じ、それを表明しつつ走るような父が恥ずかしかった。
やがて父と僕は自転車で出かけなくなった。
親子で一列になり、自転車で出かけるようになると、僕はフラフラ走る後ろの子供をチラチラと見ながら
走るようになりバックミラーが欲しいなと思った。
その時僕ははっと思った、父がバックミラーで見ていたのは交通ではなく子供の頃の危なっかしい僕なのだと。
僕は父の愛を思い出して自転車の上で少し泣いた。