2016-11-17

父の自転車バックミラー

自動車の無いウチは、よく父と自転車で遠くまで出かけた。

遠くの安いスーパー、大きい公園

ある時は、父は自分の生まれた所が見せたいと、自転車で遠く離れた父の生家まで乗り気でない僕を連れて自転車旅行に行った。

中大雨に降られ、安物のテントに滲み出る雨を父は夜通しタオルで拭いていた事を覚えている。

中学生時分の僕は、父の自転車に付いているバックミラーが恥ずかしかった。

交通確認なんぞちょっと後ろを見ればできるのに、

それを否定するバックミラーに父の老いを感じ、それを表明しつつ走るような父が恥ずかしかった。

やがて父と僕は自転車で出かけなくなった。

それから少しして父はくも膜下出血で死んだ。

僕は結婚子供が出来た。

子供は大きくなり自転車に乗れるようになった。

親子で一列になり、自転車で出かけるようになると、僕はフラフラ走る後ろの子供をチラチラと見ながら

走るようになりバックミラーが欲しいなと思った。

その時僕ははっと思った、父がバックミラーで見ていたのは交通ではなく子供の頃の危なっかしい僕なのだと。

僕は父の愛を思い出して自転車の上で少し泣いた。

そのあと自転車バックミラーを付けた。

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