少し前、マンションの入口で走ってきた女子小学生と鉢合わせた。ぶつかりそうになったから俺は「おっと」とかなんとか言った、と記憶している。
女子小学生の方は、すごく申し訳無さそうな表情と、消え入りそうな声で「すいません……」と言ってエレベーターへと走った。
すぐ謝れるのに感心したが、それよりも萎縮しきったような表情がすごく気がかりだった。
俺の住んでいるマンションはワンルームだ。「誰かに会うために来たのであってくれ」と願った。ここに小学生が住んでいるという状況を想像したくなかった。ワンルームに住む家族は不幸だと思ったのかもしれない。彼女の表情から何かを邪推してしまったのかもしれない。その日は少しの間、心が痛かった。少しの間というのが無責任なところだ。
そして今日。仕事を終えて帰ってくると、エレベーターから彼女とその母親らしき人が出てきた。小学生は笑顔だったが、また消え入りそうな声で俺に「こんばんは」と挨拶をしてくれた。俺はどぎまぎして、夜なのに「こんにちは」と返した。
のちのカブ容疑者である。