かつて父親を殺された少年は、
その下手人に死刑判決を下した裁判官に憧れ、
自らも立派な裁判官になろうと決意した。
しかし。
司法試験の壁は高く、そして分厚かった。
何十年にも渡る苦学の日々。
やむを得ず就職するも過酷な労働はますます彼から気力を奪っていく。
少年は青年となり、大人となり、そして老境に差し掛かっていた。
いま、彼は何者でもない。
名を持たぬ一人の増田である。
幼い頃に抱いた鮮やかな決意は、
いまや腐りきった憎悪へと転化し、
それが裁判所へと向けられていた。
彼は濁った目でディスプレイを睨む。
私を認めない法曹界は間違っている。
あの美しかった司法を取り戻さねばならない。
公平で高潔だった司法を取り戻さねばならない。
……彼は増田に書き続ける。
幼き日の決意を嘘にしないために。
今日の自分を嘘にするために。
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