2013-06-07

梅酒と母

 今年も梅ジュースを漬けた。

 暗所に置こうとゴソゴソしてたら、年代物の梅酒が出てきた。

 梅酒の瓶を見ると、アル中母親を思い出す。

 母と同居していた時は、毎年毎年梅酒を漬けていた。

 毎年毎年3か月経たずして、母にすっかり飲まれてしまっては、毎年毎年口論となった。

 それでも毎年、梅酒を漬けた。

 実際のところ、私はそんなに梅酒など飲まない。だから、毎年漬ける必要などないのに。

 私は母に経済虐待を強いていた。当時はそれが虐待などと微塵も知らなかった。生活費を渡せば全額飲んで帰ってくる。生活費を止めても現物支給にしても、小銭を探し出しては缶ビールを買いに走る。料理酒味醂までも飲む。

 「断固として断酒を、それがアル中者に対する愛情」と信じて、母親の周囲からアルコールを遠ざけたが、あの手この手アルコールを調達してくる。

 だから、私は母に金銭を一切渡さなかった。

 そんな中で、本当なら絶対NGであろう梅酒を、毎年漬けた。

 飲まれることは判っているし、また口論になる事も分かっていたのに。


 たぶん。

 私は、母の笑顔が見たかったのだと思う。



 何をしても喜ばない、私がどんなに成績が良かろうと、手が器用で作品展で賞を貰おうと、すべてマイナス材料にして悪態をつきアルコールに逃げる母親

 なのに、唯一笑顔で私の作った梅酒だけは母親笑顔にした。今日明日かと待ちわびて、ある日突然、あの大きな瓶の中身をすっかり平らげてしまう。

 そんな異様な光景の、それでもどこか嬉しかったのだと思う。

 全てのアルコールを排除できなかったのは、私の弱さだった。


 梅酒は数年前から漬けてない。

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