今年も梅ジュースを漬けた。
母と同居していた時は、毎年毎年梅酒を漬けていた。
毎年毎年3か月経たずして、母にすっかり飲まれてしまっては、毎年毎年口論となった。
それでも毎年、梅酒を漬けた。
実際のところ、私はそんなに梅酒など飲まない。だから、毎年漬ける必要などないのに。
私は母に経済的虐待を強いていた。当時はそれが虐待などと微塵も知らなかった。生活費を渡せば全額飲んで帰ってくる。生活費を止めても現物支給にしても、小銭を探し出しては缶ビールを買いに走る。料理酒や味醂までも飲む。
「断固として断酒を、それがアル中者に対する愛情」と信じて、母親の周囲からアルコールを遠ざけたが、あの手この手でアルコールを調達してくる。
だから、私は母に金銭を一切渡さなかった。
そんな中で、本当なら絶対NGであろう梅酒を、毎年漬けた。
飲まれることは判っているし、また口論になる事も分かっていたのに。
たぶん。
何をしても喜ばない、私がどんなに成績が良かろうと、手が器用で作品展で賞を貰おうと、すべてマイナス材料にして悪態をつきアルコールに逃げる母親。
なのに、唯一笑顔で私の作った梅酒だけは母親を笑顔にした。今日か明日かと待ちわびて、ある日突然、あの大きな瓶の中身をすっかり平らげてしまう。
全てのアルコールを排除できなかったのは、私の弱さだった。