生きているイカを間近で見たのはあれが初めてだった。
中では数匹の元気なイカが、水流にのって水底を泳いでいた。
じぃっと見ていると、ふいに一匹が斜めに泳ぐ。水面に向かって。
にょき。
そんな効果音が似合いそうな動きで、イカの胴が水面から飛び出した。
そのまま、頭近くまで浮き上がる。
……目が合った。
イカの目は、高性能らしい。
目の後ろ側に神経束がある人間と違って、レンズの外側に神経が通っているそうだ。
色が見えるのかどうかは、私にはわからない。対角線上に目がついているので、立体的には見えないだろう。
そんなイカと目があった。
ちゃぷん、と。
思考している間に、イカは水中に潜った。
さよなら。心の中でそうつぶやいて、私は水槽を離れようとする。
三角形で、うねり動いている。
イカの耳だ!
イカはその耳を水槽の縁に載せるようにして、半周ほど水槽を泳ぎ、最後にもういちど水面に目を出してから、また水底に戻っていった。
その日の夜のこと。
夕食は、函館で有名な活イカだった。
皿の上で身をよじる姿を見て初めて、あのイカも食べられるために飼われていたんだろうな、と気付いた。
今日か明日か知らないが、彼もどこかの人間に生きたまま切り裂かれ、食べられるのだ。