ちょっと寝不足なとき、椅子に腰掛け、ちょっと無理な態勢で目を閉じる。ちょっとすると、意識に脳を殴られるような感覚に出会う。
まぶたがおもい。てあしがおもい。
本で読んだ催眠術の導入文をひとつひとつ再現していくような気分。
意識が、早回しの映像を見せつける。見たことのある世界。聞いたことのある声。もっとそちらに身を任せて、成り行きを眺めたくなる。その反面、眠りに落ちまいとわたしは強く心を支える。
この均衡は、現象に向かい合ったときの僅かな理性で掴みとった時覚より、相当に短い。その間に、腰掛けていたはずの自分が横たわっていたり、その横たわっていると判断した脳みそは速やかにそれが誤りで、わたしは確かに椅子に腰掛けていると思い知らされ、ふと意識が戻り、目の前の家具を捉えても、どれだけ気合を込めても、視界はまぶたのおもさに圧し潰され、まぶたの痙攣を感じながら黒に引きずり込まれたりする。
そしてわたしが打ち克ったとき、目の前の世界を、わたしをいざなう何者かを治めたとき、かりそめの充足がからだとこころに憑く。
わたしは冷えた手で頬をたたき、まぶたを冷やしてそれを封ずる式を執る。