今月で境界例の女性との生活が終わり、自分の元にかつての平穏な生活が戻ってきた。
そして境界例の呪縛から解かれて余裕が生まれたせいか、彼女がとった理解不能な行動をもう一度改めて思い出し、
絡まった糸をほどくように一つ一つ「なぜ彼女がそう思ったか」「なぜ彼女がそういう行動をとったか」をゆっくりと考えるようになった。
その話をカウンセラーにしたら「なぜそんなに彼女の行動が気になるんです?」と聞かれた。
「今そういうことをしても何もプラスにはならないと思いますよ」だからやめた方がいい。それがカウンセラーの言い分だった。
とりあえず「ジェットコースターのような刺激的な生活が終わり極端に暇になったから」と答えようとしたけど求められている答えとは違う気がした。
でもいくら考えてもいい答えが思い浮かばなかったので、なんとなく「推理小説が好きだから」と答えてみた。
「推理小説って最後に探偵役が犯人がどういう動機でどういう行動をとったか、全部解説するじゃないですか。
逆に犯人の動機も犯行の手順もわからないまま「犯人の心理は最後までわからなかった。もう忘れよう」で終わる推理小説なんてあったら嫌じゃないですか。
それと同じだと思うんですけど」
カウンセラーは黙ってカルテに何か書き込んでて返事をしなかったので話を続けた。
「あと、彼女に限らず友達であれ同僚であれ、自分の理解の範疇を超える行動をとった時はなぜそうしたのか興味を持ちます。
それは私が知らないだけで、たぶんその人にとってはとても合理的な思考に基づいた合理的な行動だと思うんです。
だとしたらその人が考える合理性とはなんなのか知りたい。知って「なるほどな」と思いたい」
「じゃあワイドショーなんかで見る事件や芸能人のスキャンダルでも同じことを思いますか?」
「それは思わないです。友達や同僚なら考察するためのバックボーンをある程度持っているからそれを元に考えることができるけど、
ワイドショーの事件や芸能人のスキャンダルにはそれがないですから」
それを聞くとカウンセラーはまたカルテに何か書き始めた。
いったい何を書いてたんだろう・・・
気になる・・・
知りたい・・・
短編作家としての才能は相変わらず抜群だな。