「また8月なのにね」
「もう9月だよ」
私はもう27になるけど、クリスマスコフレなんて、まだ買ったこともない。百貨店に近寄るのも、まだ慣れない。
彼と話すうち、化粧品のデザインの話になった。きらきらしてかわいいものは多いけど、プラスチック製の素材は、どうにも女児玩具っぽくて、私は受け付けない。
ロココ調を目指しているであろうラデュレの花びらチークを見せながら、「いい線いってるけど、惜しいよねえ」と私が呟くと、
と、デザインよりも材質を重視する彼が、呆れたようにこぼす。
いろいろ探して、資生堂の復刻版の白粉とか、オイデルミンの瓶とかを見つけた。これはかわいい。
それから伊勢半の板紅。画像と、ケースの材料を見て、彼も深く唸っていた。
「本物は.....すごいな.....」
「これは、娘が成人した時にあげてもいいレベルの贈り物だと思うよ」
「そうだね.....」
それから、現代でも彫刻品としてきれいな化粧品ケースの文化は、香水瓶に受け継がれてるんじゃないかって話になった。
彼は、ガラス製の瓶が好きらしい。
エジプト香水瓶の存在を今日初めて知ったらしく、「デキャンタにできるかな?」なんて言ってはしゃいでいた。
サンタマリアノヴェッラのマッジオウォーターは、5月生まれの彼のために選んだものだ。ずっしりと重いガラス瓶で、底に刻印がしてあるしっかりした作りだ。
「なつかしい。昔家族で行った、リゾートホテルの香りがするよ。」と、今でも気に入っていて、時々つけてくれている。
そうしてだらだらと話しながらネットサーフィンをして、ゲランの「夜間飛行」を見つけた。
これには、二人で画面の前で唸ってしまった。
流石に手が出せる値段じゃなかったけれど、でも、とてもかっこよかった。20世紀前半のデザインが、そのまま残っている。
「そろそろ寝ますよー」と諭されて、今こうして布団にもぐっている。スピーカー越しに寝息が聞こえる。向こうはもう寝てしまったかな。
会話するほどに、互いの好みを深く知ることができて、とてもたのしい。