もう数十年前の話なんだけど、当時2歳になる子供が本当に可愛すぎて好きすぎてさ。
仕事から帰るともう寝てるんだけどその寝顔を見ては「お、今日も安らかにお眠りになられてるなぁ」とか冗談っぽく言ってさ。
すると決まって妻が「なんか死んでるみたいだからその言い方やめてよ」とこれまた冗談っぽく返してきてそんなやりとりをよくしてた。
数ヵ月後、朝起きたら布団の中で冷たくなってた。
それが終わると一気に感情が押し寄せてきてさ。
自負の念に駆られて「安らかに眠ってる」とか冗談でも言わなければよかったとかさ、妻もそのことに関しては一切触れてこないし俺もなるべく考えないようにしてた。
でもさ、それからというもの何やってるときでも幻聴のようにずっと頭に響いてくるんだよね。外出中でも食事中でも風呂の中でも
「安らかに眠ってる」
夢の中ですらこだまする。
それから十数年たって、結局俺たち夫婦の間には子供はできなかったんだけど、でも夫婦としては仲睦まじくなんとかここまでやってきたんだけどさ。
でもずっと頭にもやもやが残ってて、いつかちゃんと夫婦であの事について話したいと思ってた。
でとうとうこの間の子供の命日に切り出したんだよ。
「あのさ」
「どうしたの?」
「ずっと後悔してる事があって、・・・安らかに眠ってるとかさ冗談でもああいうこと言わなければよかったって、言葉には魂が宿るっていうか、本当にそうなってしまうっていうか・・・」
「そんなこと気にしてたの?昔の話だしそんなことで後悔することないよ」
「ほんとうにごめんな」
「だって?」
これはいい
なんだろう どこかで見たようなショートショートだな