2016-01-29

17歳の時、頭痛が襲った。

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小さい頃、俺は神童と呼ばれていた。

言葉も早かったそうだし、稽古はいつも一番だった。

村のみんなからも一目置かれ、両親の誇りだった。

いずれは都に行って、立派になって、村のみんなを助けてやりたいと思っていた。

俺の人生が転落を始めたのは、14歳になった頃だ。

爺さんに連れられて山菜を採りに行った時、熊と鉢合わせた。

こういう場合、熊には決して背を向けず、ゆっくり後ずさりするのが鉄則だ。この村の人間なら誰でも知っている。

ところが俺は、恐怖のあまり何も考えられず、全速力で逃げ出したのだった。

熊は興奮し、全力で俺を追いかけてきた。

相撲でもかけっこでも村一番だった俺でも、山道で熊から逃げ切れるわけはない。

40歩ほど走ったところで、熊に追いつかれ、熊に叩き倒された俺は、今にも俺を殺そうとする熊の息を感じていた。もうダメだと思った。

熊が悲鳴をあげたのはその時だった。

熊の頬から熱い血が滴り落ち、俺の腕に当たった。その先に光っていたのは、爺ちゃんの草刈鎌だった。

「逃げろ!」

爺ちゃんの声。

そこから先は、よく覚えてない。思い出すのが嫌で、誰にも言わないようにしているうちに、本当に忘れてしまった。

わかっているのは、俺は生きて山から村に戻ってきたこと、爺ちゃんはそれ以来、帰っていないということだ。

俺は稽古いかなくなり、家から出ないようになった。

家の手伝いもせず、母ちゃんが作ってくれるご飯を食べる以外は、畳の上で天井を見上げていた。

村のみんなが俺を軽蔑している。

俺は爺ちゃんを見捨てた卑怯者だ。

母ちゃんや父ちゃん迷惑ばかりかける木偶の坊だ。

俺は何もできなかった。

17歳の時、頭痛が襲った。

頭皮がズキズキして、俺の頭の中から何かが出てくるようだった。

一週間後、痛みがなくなった。

さらに一週間後、あいかわらず天井を見上げていた俺は、頭の表面に硬いものを感じた。

手で触ってハッとした。

「角だ」

–––1000年前、この村を鬼の大群が襲った。

力にも数にも勝る鬼の大群に、村の戦士たちはなすすべもなく、たった2日間で長老降伏同意した。

村は10年に一度、鬼に生贄を捧げることと引き換えに、鬼は二度とこの村に攻め込まないという和平条約だった。

鬼に捧げる青年は、時が来ると頭から黒い角が生えてくる。鬼の一族の印だ–––

俺はこの話を、小さい頃によく爺さんから聞かされた。

祭りで担ぐ御輿の中には、生贄になる青年が入っている。

毎年春に担がれる御輿は、祭り最後に村のはずれにある社に備えることになっている。そうすると、10年に一度、社に備えた御輿は跡形もなくなくなり、次の年のための御輿作りが始まるのだ。

俺は、生贄になるのか?

翌朝、俺の角を見て母ちゃんは泣いていた。

こんなもの俺がとってやると、父ちゃんは言った。1000年も前の鬼との条約なんて知ったことか、と。

俺は考えさせて欲しいと言った。

4ヶ月が経った。夏になり、御輿の準備が整い始めた。

母ちゃんは毎晩のように泣き、父ちゃんは角をとってやると繰り返し言い、俺を説得しようとしていた。

「みんなの役に立ちたい」

父ちゃんと母ちゃんの前で、俺ははっきりそう言った。

「角は取らない。俺は生贄になる」

本心だった。

この3年間、俺は役立たずだった。死んだ方がマシだと思っていた。死ななかったのは、ただ勇気がなかったからだ。

御輿に乗って、10年後、鬼に取られる。そうすれば、俺はやっと、役立たずじゃなくなるんだ。

俺には他に何もない。

御輿に乗れば、村を守れる。

御輿に乗れば、みんなの役に立てる。

御輿に乗れば、俺は、俺に戻ることができる。

長老に、伝えてください。俺は乗ります、と」

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