2014-08-29

神童だった子

叔母夫婦の子供は一人っ子。大人しくて色白で、真面目そうな少年だった。小さい頃から本を読むのが好きっていう、一人遊びができる子で、叔母夫婦も手が掛からない子だっていってかわいがってた。

の子は前に会ったころ、いわゆる鉄道マニアだった。遊ぶ玩具プラレールとかで、読んでる本も電車が出てくるものばかりだった。

一回だけ、一緒に外に遊びに行ったことがあるんだけど、その子電車が通る度に「あ、今のは○○線の○○系の電車だよ」と一々解説してくれた。知識をひけらかすようなことをしてても、五歳の子供だからちっとも煩わしさなんて感じなかったし、むしろほほえましくてたまらなかった。その子電車を見る目はほんとうに輝いてみえたし、好きなことに夢中になって色んな知識を吸収してる様子は、いったい将来どんな人間に育つのかと期待させて、叔母夫婦が羨ましくてしょうがなかった。

電車の知識なんて全く持ってない俺は、その子の知識欲と好奇心の旺盛さに素直に感心してしまったし、こんな小さな子供が、おっさんのおれよりも、特殊な分野ではあるけれど、深い知識を持っているのをみると、これから年老いて萎びていくしかない自分よりもはるかに優秀な人間に思えたし、実際そうだったと思う。

そしてついこの間、五年ぶりにその子に会った。おれはすごくがっかりした。

の子は少し太って、むっちりとしていて、今は電車じゃなくてゲームに夢中らしい。話をしても、なんとなく愚鈍で、間の抜けた感じの返答しかしてくれなくなっていて、すっかり暗い少年になっていた。

おれはその子が五歳のころの、電車を見ながら自信満々に解説してくれた時の明敏な印象しかなかったので、それがたった五年でこんなに変わるものかと思って悲しかった。叔母夫婦教育がわるかったのかも知れないし、学校でなにかよくない影響があったのかも知れない。そんなことはわからないけど、きっと五歳のころのその子もっと色んな可能性があって、こんな風に暗い少年には育たない道筋だってあったはずだと思うとやりきれない。

  • なんともいえないけど、人生浮き沈みするもんだからね。数年したら、その子はまた別の活気をもつようになっているかもしれない。 大人だって日々浮き沈みしているし、数年を1単位...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん