犬のハチがいなくなった。
ふと目を離した隙に姿が見えなくなってしまった。
リードが外れてしまったのか、どこかへ走って行ったのか、とにかく姿が見えない。
慌てて名前を呼びながら近所を探し回ったが、どこにもいない。
普段はちょっと呼べばすぐに戻ってくるハチなのに、今日はどれだけ呼んでも反応がない。
頭の中で嫌な想像ばかりが膨らむ。車にひかれたんじゃないか、迷子になったんじゃないか……。
夕方になっても見つからず、日が沈むとあたりはすっかり暗くなった。
心細さと不安がどっと押し寄せてきて、家に帰ると自然と涙があふれた。
「ハチ、どこ行っちゃったの……」
声を出して泣くなんていつぶりだろう。悔しいやら寂しいやらで、気持ちはぐちゃぐちゃだ。
膝を抱えてしゃがみ込み、わんわんと声を上げて泣いていると、ふと、頬に何か湿ったものが触れた。
「え?」
びっくりして顔を上げると、そこには――ハチがいた!
「ハチ!」
思わず声を上げて抱きついた。ハチはいつものように尻尾をぶんぶん振って、まるで「ただいま!」と言うように私の顔をペロペロと舐めてきた。
怒るどころか、嬉しさで涙が止まらない。ずっと胸に溜まっていた悲しみが嘘みたいに消えていって、ただただ幸せな気持ちに包まれた。