国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった
向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラスを落とした。雪の冷気が流れ込んだ。
娘は窓いっぱいに身を乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「お母さあああん」
明かりを下げてゆっくり雪を踏んで来た男は、
襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。
もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の
官舎らしいバラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。
「食べ物ってどこで調達するの?」
「荷物はどうほどけばいいの?」
「美緒生きていけないよおおおお」
「駅長さん、私です、ご機嫌よろしゅうございます」
__美緒48歳
_____配偶者 なし 子供 なし 生活能力 なし
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