2022-04-02

それでも僕はゴキブリを叩き潰した

ついさっきまで映画を観ていた。

それは戦争もので、単純化できない善悪を描いていた。

何人もの人が亡くなり、人を悼むシーンで思わず僕は落涙していた。

素晴らしい映画だったと感慨に浸りながら、飲み物を取りに台所へと赴いた。

そこには蠢く黒い物体がいた。

ゴキブリだった。

暖かくなり始めたからだろうか。

今年になって、初めて見た。

僕は思わず近くにあった空のペットボトルを掴み、振り下ろそうとした。

ゴキブリは逃げなかった。

ただ触覚のようなものを、しおらしく垂れ下げていた。

死を覚悟したのかもしれない。僕はペットボトルを振り下ろす。

直前で僕の手は止まった。

フラッシュバックする映像記憶は僕が先ほどまで観ていた映画

理不尽な死を悼む人々の姿。落涙する僕の姿。

僕は眼前に意識を戻した。

ゴキブリはまだいた。今にも動き出そうとしていた。

一瞬、僕の中にふつふつとした怒りのような殺気が沸き立った。

僕はペットボトルを振り下ろす。

手ごたえ。感触があった。ぬめぬめと、粘り気のある液体がペットボトルを伝い僕の腕に感触をもたらしたかのようだった。

僕はゆっくりと腕を上げる。ぐちゃっとした死体がそこにはあった。

手が震えていた。こんなことは初めてだった。

僕は嘔吐した。

流しに向かって。

僕は後悔した。

潔癖症ではなかったはずなのに。

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