2020-04-08

荻原長一『髑髏の証言 ミンダナオ島敗走録』



 「実は、二十日ほど前にも一人……。海軍中隊の畑(北上の際同隊が最初発見し独占していた古い畑)から少し南下した所で、肉が欲しくてどうにも腹の虫が承知しやがらねえんで、一緒に行動していた海軍兵隊を、夜半にやりましたがね」

 「一体何でやったんだ。軍刀でか」

 「いや、この拳銃すよ。眠っているところを頭に銃を当ててやりゃ、一発でいっちゃうやね」

 そう言って、後ろに掛けてあった十四年式の拳銃を指した。そこに拳銃があるのに今初めて気がついた。

 私たちは、立ったままの姿勢で身動き一つ出来ず、ヒザがガタガタするのを力一杯踏み抑えようと思ったが、その力も出なかった。私は、嫌悪脅迫感をまともに感じながら、顔から血の引くのを懸命に耐えた。

 彼はむしろ得意気に、さらに続けた。

 「最初はやっばり、腕や大腿部をバラして、良い所を乾燥肉(薫製)にして取って置く。まず臓物から食っていくんすが、肝臓なんざァ特にわッしの大好物でさァ。腸も小ちゃく切ってよく煮ると、シコシコして椎茸みてェで何ともいえねェ昧だね」

 

生活保護を受けられず餓死した人は兵隊に行ける年齢じゃなかったから人を殺して食うのも合法的には無理だった

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