おいおいと泣いた。父の言葉に傷ついて泣いた。
父の言葉は乱暴だった。否定的だった。母の認識に、判断に、決断に、行動に否定的だった。
父は母の認識に、判断に、決断に、行動に寄り添わなかった。常に母の外側に立場を置いた。それでいて否定的だった。
私は出来ることやってる、やることなんでも否定して、どうしろって言うのよ。
そんなこと言ってねっちゃ、こうした方いいべって言ってるだけだと言いながら、居間のドアを閉める。
母の涙声と父の慌てた声が小さくなり、投げやりなニュアンスで途切れる。
父はよく、兄弟の前で泣く母を叱った。母は頷いていた。親の弱さは、見てはいけない。だから、今、居間に行ってはいけない。今、居間、忌々しい。
こうなる予兆はあった。父の母に対する言動は、確かに否定的だった。母だけではなく、誰にでも。
私はそれを見て見ぬ振りした。父は、正しくない。正しくない父は、見てはいけない。自分の正しさを周りに押し付ける父は、弱い。父の弱さは、見てはいけない。
父は、正しく、強くあろうとしている。正しくあろうとするから、母の側に立てない。弱さに立ち入ろうとしない。しかしそれを否定してはならない。
いや違う。私は単純に怯えていた。父に否定されるのが、父を否定するのが恐かった。爆ぜ、崩れ、砕かれ、不可逆的で巨大な変化を怖れた。
虐待はこのようにして続いていくということを、私は知っている。