レントゲン写真をボールペンのケツでつつきながら、医者はそう言った。
目の前が一瞬暗くなって、それから、さっきまで石ころのように
小足で蹴りながら運んできた仕事、家族、可能性が、ドブに落ちていくのを感じて、あっ、と思った。
手術でしょうか?入院でしょうか?治るんでしょうか?
医者は、はいともいいえとも言わずに、顎に手をやりながら暫し沈黙すると、
「まあ、悪いものでもなさそうだし、とりあえず様子見ときましょうか」
拍子抜けとともに、思わず笑顔になった、医者も笑顔で頷いた。世界に色が戻ってきた。
自覚症状が無いだけで、大抵の人は加齢とともに価値観が出来てしまうものらしい。
あーあ、俺ももう若くないんだなあ。