ふと牛丼か食べたくなって近所のすき家に出かけた。割と混んでいたので、50代ぐらいのご夫婦の隣に座る。カウンター席だ。注文を済ませると素早く牛丼と豚汁のセットが出てくる。
俺が昼飯を食べていると、横のご夫婦の話し声が聞こえてきた。
おじさん『○○なんてのがあるよ』
おばさん『あら、おいしそうねえ。□□はどーお?』
おじさん『なるほど。それもおいしそうだなあ』
2人『うふふ』
という感じでメニューを眺めている。
俺の昼飯が終わりかけても、ご夫婦は上のやりとりを続けている。たまに『若い人は食べるのが早いねえ』とか『早く食べたいねえ』とも話している。
何度か店員が注文を聞きに来たが
おばさん『まだ迷ってるので。もう少しと待ってくださいね』
と待ってもらっていた。
こわな優柔不断な人もいるんだなあ、と思っていると、しばらくして、ご夫婦は急に立ち上がった。
と言い残してお二人は帰っていった。
普通に考えると迷惑な客なのだが、なんだか妙なほんわかした空気になった。店員も『そうですかあ。また来てくださいね』と笑顔で対応している。
どうも悪気はないらしい。お二人揃って天然というか。店員も抜けているというか。なんとも不思議なご夫婦に遭遇し、俺は肩の力が抜けた。今日の午後はのんびり温泉にでも行こう、と今考えている。
片方は痴呆症で既に食事を済ませてるのに、また食べたいと言うからすき屋に連れてった。 食べたいという衝動が消えるまで、メニューを見て考えさせて、落ち着いたところで帰って行...
涙が出て来た。