しかし実のところは、並みの阿呆には気づけぬほど深い阿呆だった。
いじめられるかつまはじきにされるのがデフォだったにもかかわらず、
子こそなけれど人並みに家を構え、
居酒屋のオーダーを金額で絞り込む必要がない程度には稼ぎがあり、
三流なりに稼ぎに恥じぬ程度の評価と成果は残し、
人に頼みにされ、それに応え、人の輪に迎えられ、言葉に耳を向けられ、
ああ、そうか、阿呆のくせに、なんだ、
俺はこの、このままに死ぬのだな、と思っていた。
不出来にしては上等の凡人生であり、
知恵の欠落した俺には本来望むべくもない安寧であり、
有り難いことこの上ないと思いつつも穏やかが当たり前の日々であり、
ここまで来れば退屈も味わい方次第よ、と
老いの心意気に至ったつもりでさえいた。
選び戦うことを、捨て争うことだと浅はかに合点し、
慎ましやかなりに奇跡であった楼閣の、たったひとつの支柱たる運を、
俺の才覚だと疑いもしなかったのである。
阿呆に運は微笑まない。
朽ちよと蔑むその声が耳の奥に、低く這い回るのを感じながら、
俺はもはや何事も拒めない。