2014-04-27

幻想世界にて

 空は奇妙な色に霞んでいた

 仄かな光の粒子が空中に幾つも漂っていて、そしてその影響で、単純なグラデーションではない、まだらっぽい模様の色彩が空を埋めていた。それは茜色であり、オレンジっぽくもあり、黄色っぽくもあり、同時にごく薄い青色のようでもあった。僕はそんな空を見上げていた。

 そして視線を下ろす。

 僕の目の前には、たくさんの麦の穂が立ちふさがっている。

 その所為で、僕はまともに正面を見渡すことすらできない。

 というか、僕の周囲は現在麦の穂によって完全に閉ざされていた。左右も、背後も、全て、時折風に揺れる麦によって、塞がれている。僕の身長はとても低いのだ。

 僕は、とりあえずその麦の穂をかき分けながらに歩こうとする。

 結構な重労働だ。

 でも、実際にはそんなことをする必要は無かった。

 ぱきぱき、ぱきぱき、という、麦を折って誰かが歩いている気配が、どんどん近付きつつあった。

 僕は、直前まで取ろうとしていた行動を止める。

 しばらく、その麦の折れる音は続いて、やがて、僕の頭上に、一人の女の子が顔を出していた。

 白いワンピースを着た、長いブラウンの髪の少女だった。

 彼女は、光の加減で琥珀色に見える瞳で、僕のことを見ていた。僕が、彼女の方を見返していると、彼女は一度微笑んだ。

 それから彼女は僕が歩きやすいように、僕の正面を塞いでいた麦の茎を、根本の辺りで折ってくれた。

 それで視界が開ける。

 彼女が、ここまで歩いてきた分は、麦が倒れているお陰で割と視界を確保することができていた。

 彼女は僕の方を暫く眺めていて、それから、何も言わずに、自分が来た方向へと振り返った。

 そして、歩き始める。

 ゆっくりとした足取りだった。

 僕はそれに着いて行く。

 風が吹いている

 きっと、辺りには麦の匂いが満ちわたっているに違いなかった。

 でも、僕にはそれを感じることはできない。

 風や、匂いを感じる為の器官が、僕には備わっていない。

 僕は、不完全な存在なのだ

 そしてまた、彼女も。


 でも、ひとまず僕は彼女のことを追うことはできていた。

 僕が付いてきていることを、彼女は時折振り返って確かめていた。とりあえず、この麦の野を抜けるまでは、そうしてくれるのはとても有り難かった。

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