いつもより上ずった声でおじいさんが炊事場のおばあさんを呼びに来た。
「あのぉ、ばあさんや・・」
おじいさんの様子がどうも違っている。普段はお茶でも薪でも耳が痛くなる声で叫ぶのだが、今日は視線も合わせず何か言いにくそうにしている。
「あの、もしよかったらでええのじゃが、あの、居間の方に、えっと、来てほしいんじゃが」
どうしたのだろう。こんなに遠慮したおじいさんを見たのはいつ以来か分からない。
「うん、まぁ、あの、良かったらじゃが・・うん、あの、いま来てもらいたいのじゃが・・」
「どうしたんですか、おじいさん」思わずおばあさんも訝しげに言う。
「いやぁ、まぁ、たいしたことはないんじゃ、あのたいしたことは、なぁ」
おじいさんの様子に戸惑いながらおばあさんも濡れた手を拭き、二人で居間の方に向かった。
「あぁ、すまんのう」と言うおじいさんの横顔は赤らんで、まるで乙女が恥じらうように目線がどうも宙を泳いでいる。
「それで、どうしたのですか、おじいさん」
居間に二人で座ったものの、おじいさんはどうも様子がおぼつかない。
「あぁ、えーっと、そのなんじゃ、うん」
左手の親指の爪を右手の親指で何度もなぞり下から上へ上から上へとおじいさんは繰り返している。
「あの、ほらまぁ、あのほれ、前からのぉ、ほらばあさんは、前からの、えっと、その前からの話なんじゃが」
おじいさんはずっと親指を凝視したまま誰に言っているのか分からない。
「ほら、あの、ばあさんは、ほら前から、子供がの、あの、ほしいと、えっと言っておったじゃろ」
「うんうん、そうじゃろう、そうじゃろう」
「それがどうかされました」
「あのぉ、それなんじゃが、えっと、のぉ」
相変わらずおじいさんは親指をなぞって、人差し指と中指の間ゴシゴシと指でなでたりしている。
「どうしたのですか、おじいさん、しっかりと言ってくださいな」
思わず声をあげたおばあさんに反応して、おじいさんはおばあさんの方を見た。
「えっと、それがの、あの、まぁその、ちょっとあれなんじゃが、ほら実はじゃ、あのほら、できたんじゃ、えっと何がかと言うと、あの、子供ができたんじゃ」
沈黙が二人の間にどれくらいあっただろう。
その沈黙を破っておじいさんがこう続けた。
「アハハハハハ」
「アハハハハハ、ヒィヒィヒィ、」
「プププププッ、コラ、ば、ばあさん!ばあさん!笑うでない!プープップッアハハハハコラ、、ばあさん、んぐ、ププププ」
「た、た、たけやぶ、アハハハハハ、ヒィヒィヒィwww」
「アハハハハハ」
「ヒィヒィ、た、た、たけやぶからこどもブァッハハハハハ」