2013-03-12

彼女が出て行った

 僕は彼女の将来のことを思う。僕と彼女にはけっして切り離すことのできない縁がある気がする。もし妻がいなかったら、もちろん僕は彼女結婚していた。彼女も喜んで僕と一緒になってくれただろう。僕の理想生活をともにし、人生の苦しみを慰めてくれただろうに。いまの僕のこの寂しい気持ちをも彼女は救ってくれるだろう。彼女を妻にするような運命は、僕の身には起こらないのだろうか。彼女処女ではなかった。それは大きな衝撃だった。でもそのことは逆に、年上で子供もいる僕と結婚することを容易にする条件になるのではないだろうか。

 彼女の住んでいた部屋は、まだそのままになっている。カーテンを開けると、太陽の光線が流れるように差し込んだ。机も、本棚も、化粧品の瓶も元のままで、恋しい人はいものように学校に行ってるのではないかと思われるくらいだ。僕は引き出しを開けてみた。髪飾りのリボンがあった。それを取り上げて匂いかいでみた。それから隣の部屋への扉を開けた。彼女が使っていたベッドがそのままに残っている。上にかかっている寝具も、彼女が使っていたままだ。その蒲団を引き上げると、彼女の懐かしい香水と汗の混じった匂いが、僕の心をどうしようもなくときめかせた。枕元のあたりの、とりわけ汚れているところに顔をおしつけて、心ゆくまで懐かしい彼女匂いかいだ。

 性欲と悲哀と絶望が、急に僕の胸を襲った。僕はベッドに潜り込み、冷たい汚れた蒲団の端に顔を埋めて泣いた。

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